トラック運送業界と関連性の強い改正内容

    長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現○労働時間に関する制度の見直し(労働基準法)
・時間外労働の上限規制の導入
・中小企業の月 60 時間超の割増賃金率(5割以上)の適用猶予措置の廃止
・年5日の年次有給休暇の付与義務
・従業員の健康確保に向けた労働時間の状況把握 など
    雇用形態に かかわらない 公正な待遇の確保○均等・均衡待遇の確保(パートタイム・有期雇用労働法)
・パートタイム労働者と同様に有期雇用労働者も対象にした待遇の均等
・均衡の確保 ・従業員に対する説明義務の強化
○派遣労働者の均等・均衡待遇の確保(労働者派遣法)
・派遣先からの比較対象労働者に係る待遇に関する情報の派遣元事業者への提供の義務化

時間外労働の上限規制の適用

(1)ドライバー以外の運行管理者や事務職など

労働基準法は、労働時間について原則、週 40 時間、1 日 8 時間までとする法定労働時間を定めています。しかし、これまでは、労働基準法第 36 条に基づく協定(三六協定)の締結によって、法定労働時間を超えて、厚生労働大臣告示による月 45 時間、年 360 時間までの時間外労働を認めるとともに、さらに三六協定に特別条項を設けることで上限なく時間外労働を行わせることが可能となっていました。
そこで、今回の労働基準法の改正では、これまで大臣告示にとどまっていた時間外労働の上限について、特別条項によっても上回ることのできない上限時間が法律に定められました。三六協定の締結によって、月 45 時間、年 360 時間(一年単位の変形労働時間制の対象者は月 42 時間、年 320 時間)の時間外労働が認められることに変わりはありませんが、労使で特別条項に合意したとしても、年 720 時間(休日労働を含まない)、2〜6カ月平均で 80 時間以内(休日労働を含む)、月 100 時間未満(休日労働を含む)としなければならず、また、月 45 時間(一年単位の変形労働時間制の対象者は月 42 時間)を超えられるのは年 6 回までとなりました。なお、法違反に対しては、罰則として 6 カ月以下の懲役または 30 万円以下の罰金が規定されています。

(2)ドライバー

ドライバーについては、上記の時間外労働の上限規制が5年間猶予され、2024 年3月までは現行の改善基準告示どおりですが、2024 年4月以降は企業規模に関係なく一律、年 960 時間(休日労働を含まない)の上限規制が適用されることになります。ただし、ドライバー以外の従業員のような月ごとの上限規制はないため、1年間を通じて 960 時間以内とすればよいことになります(法違反に対する罰則については上記のとおり適用されます)。

ドライバーに関しても将来的には、それ以外の運行管理者や事務職などと同じ上限規制の適用を目指すことになっています。働き方改革関連法の成立に際しての国会での附帯決議では、特例が適用されるドライバーでも三六協定の原則的な上限である年 360 時間に収める努力や、時間外労働に含まれない休日労働についても最小限に抑制することを指針に明記し、労使双方に周知徹底を図るよう要請されています。また、過労死防止の観点から、2024 年 3 月までに改善基準告示の見直しを行うことも明示されています。

中小企業の月 60 時間超の割増賃金率(5割以上)の適用猶予措置の廃止

中小企業における月 60 時間超の時間外労働に対する割増賃金率の適用猶予が廃止されます。すでに、大企業では月 60 時間超の時間外労働についての割増賃金率が 50%になっていますが、中小企業についても同様に、2023 年4月から割増賃金率が 25%から 50%に引き上げられることになっています。割増賃金率 50%が適用されるのは、月 60 時間を超えた分の時間外労働についてのみで、その月の時間外労働の全体に適用されるわけではありません。また、事業場で労使協定を締結すれば、月 60 時間超の時間外労働の部分に対しての引き上げ分(25%から 50%に引き上げた差の 25%分)の割増賃金の支払いに代えて、有給の休暇(代替休暇)を付与することもできます(代替休暇を付与した場合でも、25%の割増賃金は支払う必要があります)。具体例を挙げると、時間外労働を月 76 時間行った場合、60 時間を超える 16 時間分について 50%の割増賃金を支払う必要がありますが、引き上げ分(25%)の支払いに代えて代替休暇を付与する場合、16 時間× 0.25 = 4 時間分の有給の休暇を付与すれば足りることになります。

なお、割増賃金の未払いに対しては、罰則として6カ月以下の懲役または 30 万円以下の罰金が規定されています。

年5日の年次有給休暇の付与義務

使用者は、雇い入れから6カ月間継続勤務し、その全労働日(雇用契約や就業規則等で労働日として定められている日)の8割以上出勤した従業員に、少なくとも 10 日間(パートタイム労働者の場合は所定労働日数に応じた日数)の年次有給休暇を与えなければなりません(労働基準法第 39 条第 1 項)。また、6カ月間継続勤務をした後、1年を経過するごとに、勤続期間に応じて加算した年次有給休暇を与える必要があります(同条第2項)。現在、年次有給休暇の取得率は5割に満たないとされており、このため今回の労働基準法の改正では、年5日の年次有給休暇を従業員に取得させることが使用者の義務となりました。具体的には、年次有給休暇が 10 日以上付与される従業員(管理監督者やパートタイム労働者を含む)を対象に、付与された年次有給休暇の日数のうち5日分について、使用者は従業員の意見を聴いた上で、できる限り希望に沿って時季を指定して取得させなければなりません。上記の5日分については、従業員が自分の意思で取得した年次有給休暇や、会社の計画的付与制度で取得した年次有給休暇がある場合は、その日数を5日から差し引いて、足りない日数について時季を指定して取得させることになります。

なお、年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合や時季指定を行う場合において就業規則に記載していない場合は、罰則として 30 万円以下の罰金が、また、従業員の請求する時季に年次有給休暇を与えなかった場合は、6カ月以下の懲役または 30 万円以下の罰金が規定されています。

パートタイム労働者と同様に有期雇用労働者も対象にした待遇の均等・均衡の確保

パートタイム・有期雇用労働法の改正では、同じ会社で働く正社員(無期雇用フルタイム労働者)と非正規社員(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間で、基本給や賞与などあらゆる待遇について不合理な待遇差を設けることが禁止され、それが「均衡待遇規定」「均等待遇規定」として法律に整備されました。また、パートタイム労働者・有期雇用労働者から正社員との待遇差の内容・理由等について説明を求められた場合、会社にはその説明を行うことが義務付けられました。なお、同一労働同一賃金に違反しても罰則が科せられることはありませんが、不法行為として損害賠償請求を受ける可能性はあります。

まず、「均等待遇規定」ですが、同じ会社内において正社員と比較して、①職務内容(業務の内容+責任の程度)、②職務内容・配置の変更範囲、について同じ場合は、正社員との差別的取扱いが禁止され、同じように取扱う必要があります。次に、「均衡待遇規定」では、同じ会社内において正社員と比較して、①職務内容(業務の内容+責任の程度)、②職務内容・配置の変更範囲、③その他の事情、について違いがある場合には、その違いに応じた範囲内で待遇を決定しなければなりません。基本給、賞与、役職手当、食事手当、福利厚生、教育訓練などの個々の待遇ごとに、その待遇の性質 ・ 目的に照らして、適切と認められる事情を考慮して待遇を決める必要があります。

なお、就業規則等において、正社員と非正規社員(臨時従業員、嘱託従業員、パートタイム労働者など)についてそれぞれ定義づけを行い、その職務内容(業務内容と責任の程度)、職務内容・配置の変更範囲などについて違いがあれば、それらを明確にしておくことで、待遇差に関する合理性の説明の一助としていくことも考えられます。

派遣労働者の均等・均衡待遇の確保(労働者派遣法)

労働者派遣法の改正により、非正規社員である派遣労働者についてもパートタイム労働者・有期雇用労働者と同様に不合理な待遇差が禁止されます。派遣労働者の場合、就業場所である派遣先の従業員との均等・均衡が重要になりますが、必ずしも派遣先の賃金水準と職務の難易度が常に整合的とは言えないため、「派遣先の労働者との均等・均衡待遇方式」と「一定の要件を満たす労使協定による待遇方式」のいずれかを選択することになっています。

後者の方式は、派遣元事業主(派遣会社)において労使協定を締結して、派遣労働者の待遇を決定するものですので説明を省きますが、前者の方式が選択された場合、派遣先の従業員との均等・均衡待遇を図るため、派遣元に対して自社の従業員の待遇情報を提供しなければなりません。また、その他派遣先は派遣労働者に対する教育訓練の実施や福利厚生施設の利用機会の提供などが義務付けられることになります。